トップ > 翻訳会社選びの注意点(1)

まず最初のご紹介は、定番ネタとして知られる間違い翻訳から。ライスの上にメキシカンタコスの具がのった沖縄名物『タコライス』の翻訳です。あなたのお店は大丈夫ですか?

①は「タコ」と「ライス」を直訳したもの。日本最大級の某グルメサイトなどでは、いまだにこの翻訳となっています。沖縄は独自の地域特性があるため、知識がない内地の翻訳会社やコストを抑えるために翻訳を海外で行う会社などでは、このようなイージーミスに気づかない可能性があります。

②は「タ」と「コ」に発音の近い漢字を当てて、「ライス」は直訳しています。台湾や香港では、少数ですがメキシカンタコスを「塔可餅」と書く人がいるので、この当て字を流用したものと思われます。しかし「塔可飯」という翻訳では、大半の人がどんな料理か想像できません。

③は「メキシコ風のミートソース具材をのせたごはん」という意味で、名称だけでだいたいどんな料理かが分かります。このうしろに(Taco Rice)と補足を入れてあげれば、さらに親切で分かりやすい翻訳となります。写真や解説がなくてもきちんと意味が通じる翻訳。これが基本です。

ちょっとした短文の意味を推測するのに自動翻訳ツールはとても便利です。最近では自動翻訳システムを採用した多言語Webサイトなども増えてきました。しかし外国人にとって、自動翻訳された文章ほど意味不明で読みにくいものはありません。ほとんど「暗号解読」に近いレベルです。ここでは『沖縄そば』の間違い翻訳を、県内某大手企業が運営する多言語ポータルサイト(自動翻訳システム採用)からの引用でご紹介します。

×を日本語に直訳すると「沖縄のそば」。一見問題ないように思いますが、「そば」は食べ物の「そば」ではなく、「すぐ近く」「側」「傍ら」という意味の「そば」です。もはや食べ物ではなくなっています。

△は一応、沖縄の麺類であることは想像できるので明らかな間違いとはいえません。ですが、厳密には蕎麦粉から作られた麺を意味しますので、日本蕎麦をイメージする人もいます。

蛇足ですが、同じ引用元から『ゆしどうふ』の翻訳を。「ゆし」は「輸送」、「どう」は「どう?(How)」の意味を持つ「怎樣」、「ふ」は「fu」で、「輸送怎樣fu」。中華圏の人たちはこれがまさか食べ物だとは夢にも思わないでしょう。

※自動翻訳の精度は採用するシステムにより異なります。

日本語の文章において、助詞の「の」を乱用することは好ましくないとされています。例えば、「昨日の沖縄タイムスの社会面の下の記事」という文は「昨日、沖縄タイムスの社会面下段に載った記事」という表現のほうが流暢です。日本語の場合は基本的に、短文ならワンセンテンス(句読点間)に1つ、文脈によっては2つまでなら許容されます。

一方、似た役割を果たす中国語の「的」。こちらはもっと厳しく、ワンセンテンスに2つ以上あると稚拙で砕けた文章だという印象を与えます。例えば「在沖繩的日本最美麗的海灘」(沖縄にある日本で最も美しいビーチ)は意味こそ通じますが、「的」が2つあるので見苦しく幼稚だと思われてしまいます。これらはいずれも極端な例ですが、センテンスが長くなるとうっかり使ってしまう未熟な翻訳者もいるようです。

翻訳が貴社の印象を左右しますので、ただ意味を伝えるだけではない、洗練された読みやすい文章、読み手に好感を持たれる表現であることが大切です。

※接続詞を挟んだ並列表記など、文章の構成によってはワンセンテンスに「的」が2つ以上あっても自然な場合があります。
※右の引用文はプライバシー保護のため固有名詞を伏字にしています。

まずは右上の中国語をご覧ください。日本語にもある単語なので、見た目には何の違和感もありません。ですが、これらはすべて簡体字であるため、繁体字の文章に混ざっている場合は間違いということになります。そして、このような混在ミスが県内ではかなり多いのです。これは、県内の翻訳会社に大陸出身者が多いことが原因だと推測されます。

沖縄インバウンド事情のページでご紹介したとおり、繁体字と簡体字は同じ中国語でも使う漢字や表現方法などが異なります。なので、繁体字への翻訳は台湾や香港などの繁体字圏出身者が、簡体字への翻訳は大陸などの簡体字圏出身者がネイティブチェックを行うのが鉄則です。

同じ中国語ですから、どちらの出身者でもある程度は他方の字で翻訳することが可能です。だからネイティブがいなくても引き受けてしまいます。しかし、仮にたった1文字でも簡体字が混ざっていれば、繁体字圏の人は気づきます。

同じ中華圏でも地域により歴史的背景が異なり、それぞれ自分たちが使っている字に誇りを持っています。海外の日本語翻訳によくある「ひらがな」と「カタカナ」の混在は失笑で済みますが、「繁体字」と「簡体字」の混在はともすれば国民心情を逆なでするほどの重大なミスなのです。

中華圏においては、外国語の名称に発音の近い漢字や同じ意味の漢字を当てはめて表記する傾向があります。例えば、発音で付けた『索尼(ソニー)』『佳能(キャノン)』、意味で付けた『先鋒(パイオニア)』などなど。ちなみに、これらの名称はそれぞれの企業が各国に進出して登記を行っている公式名で、中華圏で広く浸透しています。

では、沖縄の一般的な飲食店や販売ショップ・観光施設などの名称を無理に漢字に置き換えると、どうなるでしょうか? 外国人観光客が見ても、日本人が見ても、その中国語名称だけではどこのことなのか分からなくなります。人に尋ねても不明で、看板に表記がないので現地を探してもその名はみつかりません。

中華圏はもちろんのこと、県内でも知られていない中国語名称では、架空の存在になってしまいます。また、勝手な当て字ですから、翻訳者によって付けるネーミングが異なります。「自社の固有名詞は、翻訳物の用途に配慮して翻訳するかしないかを決め、翻訳する場合は以後その表記を中国語の公式名とする」「翻訳する場合も必ず日本語名や英語名を併記する」「第三者や公共の固有名詞は公式中国語名称のみ使用し、勝手に翻訳しない」など、固有名詞を翻訳する際には細心の注意が必要です。